Succession

社外取締役中村氏、高岡氏
「持続的経営を目指すサクセッションプラン」

高岡 浩三
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中村 恒一
高岡 浩三 x 中村 恒一

将来にわたって引き継ぎ可能な会社とするため、創業者の藤田が長年務めてきた社長職を2026年に次の世代へ継承できるよう、2022年より社長のサクセッションプランを始動させました。社長に求められる資質や新社長選任の考え方、育成方針などについて中長期的な視点で議論を重ね、次期経営者候補が十分な能力を発揮するためのサクセッションプランを策定、実行しています。また、社長職に限らず全ての役職におけるサクセッションプランの策定を目指し、取り組んでまいります。

社外取締役中村氏、高岡氏 「持続的経営を目指すサクセッションプラン」

当社社外取締役を務める中村 恒一氏、高岡 浩三氏に、2022年より取り組んでいる社長のサクセッションプラン、引き継ぎ可能な会社をテーマに意見を伺いました。

Profile

中村恒一

中村 恒一氏

2008年4月(株)リクルート(現(株)リクルートホールディングス) 取締役副社長就任。同社取締役相談役を経て2014年退任。2016年12月に当社社外取締役就任。

高岡浩三

高岡 浩三氏

2010年〜2020年までネスレ日本(株)代表取締役社長兼CEOを務める。退任後、ケイアンドカンパニー代表取締役就任。2020年12月に当社社外取締役就任。

サクセッションプラン始動と 次世代経営人材の育成

中村

私が社外取締役に就任した2016年頃、現場の幹部たちから「ここ数年、重要なポジションの顔ぶれは変わっていない」「抜擢人事が以前より難しくなっている」「(上司の)〇〇さんには勝てない」という声を聞いて驚いたことがありました。それが役職任期なども含めた、サイバーエージェントのサクセッションプランについて考えが及んだ最初のきっかけでした。組織を活性化させるためには、階層毎に下位2割は退けて、代わりに若手を抜擢し、そのパワーを生かすことが重要だと私は考えているからです。

その課題意識も背景に、2018年のCA8運用終了が決まった頃、「経営と執行の分離」を提案しました。全社経営に関する意思決定は取締役会で行い、業務執行はより現場に近い執行役員で構成される本体役員室へ委譲。機動的な経営体制を構築し、経営人材の育成としても機能する場になっています。

その後、2022年から社長のサクセッションプランを本格的に開始し、社外取締役会では研修の必要性について特に深く議論しました。以前のサイバーエージェントは、座学研修に対して消極的な印象がありましたが、研修で得た学びによって「人は変わる」ということを私は強調しました。そして最終的には、経営について体系的に学ぶプログラムと、社長交代以降も当社らしさを維持するためのオリジナルプログラムによる社長研修を実行することになりました。

社内から選抜された16名が参加した社長研修では、外部講師による経営基礎プログラムに加え、藤田社長の経営に関する考えをまとめた引き継ぎ書を用いた研修を実施。自身の経験や感覚的なもので行ってきた意思決定を言語化するため、藤田社長は100項目以上に渡る引き継ぎ書を自ら作成し、その内容は非常にわかりやすく素晴らしいものでした。これほど積極的にサクセッションに関わっている社長は、なかなかいないと思いますね。

引き継ぎ書によって理解は深まりましたが、実際に社長の立場に立ったときに同じように意思決定ができるかどうかは別問題です。この点を補うために、会社と藤田社長自身の歴史をまとめ、過去に藤田社長が下した決断について追体験する研修も実施しました。社長の立場に立って物事を見る、意思決定するという経験を通じて、サイバーエージェントらしい経営とは何かを感じ取り、覚悟を持って決断する機会になったと思います。

さらに、経営チームが相互に深く理解し合う環境をつくりあげるため、自己開示のプログラムも追加。生い立ちやこれまでの挫折経験などをメンバーと十分に共有することで、互いの強み・弱みを知り自立し、協働できるチームの実現を目指しました。次の社長は単独では藤田社長にはかなわないかもしれませんが、複数人で強力な経営チームを形成すれば、藤田社長に匹敵する力を発揮できる可能性は大いにあると考えています。

これらの研修プログラムを重ねることで、参加者の使っている言葉や顔つきは徐々に変化し、経営に対する共通言語が増えてきたことを目の当たりにすると、やはり「人は変わる」ということを強く感じました。

高岡

次の社長をどのように選定するかは取締役会の最も重要な課題です。交代のタイミングになって誰を選ぶかと議論を始めるのでは手遅れで、そこに至るまでの綿密な計画が求められます。今回は、リクルートやネスレで経験を積んできた中村さんと私の知見を生かし、社外取締役会で議論を重ねながらサクセッションプランを策定してきました。

人材の成長において大事なのは、現在のポジションよりも1-2つ上の視点で物事を考えること。課長であれば部長の視点、執行役員であれば常務や専務、さらには社長の視点、というように、上司の立場に立って考えることは、将来その役割を担った時の予行練習にもなります。今回のサクセッションに関しては、次の社長を内部から昇格させると明確に意思表示したことで、より効果的な研修につながったと感じます。藤田社長の立場に立って真剣に思考するプログラムを通じて、参加者たちの目の色が変わりました。人材のやる気を最大限に引き出せたことが、社長研修を行った上で一番ポジティブな変化でしたね。

※ CA8:2年に一度、2名の取締役を入れ替える当社独自の制度。2008年〜2018年まで実施。

社長に必要とされる資質

中村

社長に求められる資質として、私が特に重要だと考えるのは直感力と勘の良さ。これらは経験によって培われる部分も大きく、藤田社長の場合は将棋や麻雀で培った勝負勘や、大局を俯瞰して見る力などがその一例です。教科書的に言えば、社長に必要な要件は、二律背反することを統合する能力や、迅速な意思決定、高い目標や志を実現するための成果へのこだわりなどが挙げられます。しかし、最終的に重要なのは直感力。様々な経験を積み重ねることで直感力や勘の良さを磨き上げていくことが大切だと思います。

高岡

社長に必要な資質は一つに絞れず、すべての要件を兼ね備えた完璧な人材を見つけるのは困難だと私は思います。さらに企業の状況や時代の潮流によってどんな社長が適任かは異なりますが、変化が激しい今のような時代には、古いモデルを壊してイノベーションを創造しながら業績を伸ばせる人材が求められます。そのためには、勝つための戦略を立案し、それを実行して結果を出す能力が不可欠。グローバル企業では、社長が戦略を考えることは大前提で、最低でも10年先を見据えた戦略が期待されます。

会社の規模が大きくなると経営層に求められることは非常に幅広くなりますが、その中でも特に重要なのはガバナンス。従業員や取引先、株主など、すべてのステークホルダーから「この会社と付き合ってよかった」と言ってもらうためには、あらゆる領域に対して目配りをしながら、企業経営を正しく行うことが大切です。例えば、社内のダイバーシティは推進されているか、取引先の業績は良好かなど、グローバルでは常に問われるところ。次の社長には、ガバナンスを強化しながらグローバル企業へ進化させるための経営者としての資質が求められるでしょう。

サイバーエージェントの 競争力を引き継ぐ

中村

サイバーエージェントの競争力の源泉は、大胆な決断力と実行力にあると思います。例えば、スマートフォンが普及し始めた2011年には「スマホシフト」を掲げ、既存事業から200名ほどの人材を新規事業に異動させるという意思決定をしました。これを実現するだけでも簡単ではない中でさらにすごいのは、人材不足による売上減少を覚悟していた既存事業が、結果的には増収増益を達成したこと。世の中には変革を試みるものの、不十分な取り組みで終わってしまう企業が多いなか、サイバーエージェントは会社全体に大きな影響を与えるほどの決断を下し、その実行を軽くやってのける力があります。

インターネット業界はこの20年、急速な変化と共に成長を遂げており、サイバーエージェントは環境変化に柔軟に対応することで大きく成長してきました。加えて現在は、これまでに培われた経験と強みを元に骨太な成長戦略を描き、着実に実行を進めていると感じます。
これは、私が社外取締役として見てきた8年間の中でも一番大きな変化。21世紀を代表する会社になるための具体的な成長戦略を持ち、企業価値を持続的に高めていく方向性が明確になってきました。サイバーエージェントは単なるインターネット企業から、総合的なプロデュースカンパニーへと進化する道筋を確立しつつあります。

高岡

サイバーエージェントの最大の強みは、リスクをとって新しいことに挑戦できる仕組みがあり、なおかつ失敗に寛容なこと。ミッションステートメントにも「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」と明記してありますが、この風土が当社の発展を支えていると思います。また、インターネット企業の代表格でありながら、会社の規模が拡大した現在も組織のチーム感がありますよね。このカルチャーは次世代に引き継いでいってほしいと思います。

2020年に社外取締役に就任して以来、サイバーエージェントらしい様々な挑戦を目の当たりにしてきましたが、その中でも「ABEMA」における「FIFA ワールドカップ カタール 2022」の放送は大きな決断でした。インターネットで国際試合を観られる楽しさと便利さは、実際に体験してみないと分からなかった。かつて、スポーツは生中継でなければと考えられていましたが、時間にとらわれず、様々なデバイスで視聴できる利便性は大きな魅力だと、「ABEMA」を通じて多くの人々に理解してもらえたのではないでしょうか。"新しい未来のテレビ"として社会に価値を提供している「ABEMA」は、諦めていた問題を解決するイノベーションそのものであり、私はその成功を確信しています。

「引き継ぎ可能な会社」に必要なこと

高岡

サイバーエージェントには「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンやパーパスが明確に定義されており、それがぶれない大きな路線として存在しています。そこに到達するためには、社長交代という節目が単なる「仕事の申し送り」で終わるのではなく、会社をさらに飛躍させる機会にしていかなければいけない。そのためにはどんな施策を講じるべきなのか、次の社長や経営チームが一丸となって考えていくことが大切です。

現在、社長のサクセッションを遂行していますが、今後目指すところはサクセッションラダーと言われる各階層ごとのサクセッションプランを順次構築していくことだと考えます。グローバルで長い歴史を持つ企業では、突然の病気や転職などのリスクに対応するために、社長から課長のポジションまで引き継ぐ人材を常に準備しておくルールがあり、後任をいかに育成しているかが人事評価にも組み込まれています。サクセッションラダーに取り組むには相当な準備とトレーニングが必要ですが、幹部や経営人材を育成する研修制度が実現することで、全社的にトップマネジメント層のレベルがあがり、昇格のステップも外から目に見える形になります。そして、研修の参加者が一緒になって当社の今後を考えていくため、厚みのある組織づくりや企業の持続的成長につながるでしょう。引き継ぎ可能な会社を目指し、全社的なサクセッションプランの確立に社外取締役として尽力していきたいと思います。

中村

引き継ぎ可能な会社とは、その会社の強みや「らしさ」を失わずに中長期的に成長できる状態であるということ。今のサイバーエージェントにおける強みや「らしさ」とは、いわゆる「藤田社長らしさ」であり、社長交代後に経営チームがどのように継続していくかが重要になります。例えば、今後サクセッションラダーを導入する際、藤田社長がトップにいる間は順調に進行したとしても、退任後には実行が難しくなることもあります。研修を受けて頭では理解している幹部でも、いざ自分の大事にしている部下が異動対象になると反対意見が出やすいため、昇格や異動に関する最低限のルールづくりに取り組む必要があると考えます。

また、同様に投資や事業のマネジメントに対するルールの策定も求められるでしょう。大規模な投資を続けてきた「ABEMA」は、藤田社長のリーダーシップと信頼が背景にあることで、ステークホルダーに対する説得力を生んできました。しかし、次の社長が同じように多額の投資をしようとしても、理解されるとは限りません。そのため、サイバーエージェントらしい柔軟性やスピード感、競争力が失われない範囲で、マネジメント方針をルール化する必要があると思います。引き継ぎ可能な会社をつくるため、これらルールの整備に私も貢献していきたいと考えています。

サクセッションプラン概要

当社は、次世代の経営チームの育成とスムーズな引き継ぎを目的とした、約10年にわたるサクセッションプランを策定しました。2026年に予定されている社長交代後も、現社長の藤田は会長として併走し、新社長と協力して経営にあたります。経営の一貫性を確保しながら次世代の経営チームのサポートを行うことで、ステークホルダーへの責任を果たし、当社の持続的な成長を支えていきます。