Interview
社外取締役インタビュー
サイバーエージェントは、2025年12月の株主総会を経て、創業社長である藤田晋からバトンを受け継いだ山内隆裕が社長に就任し、新たな経営体制を始動させました。
今後は会長と社長の代表取締役2名体制とし、社長業の引き継ぎを進める予定です。
今回の社長交代や持続的な企業価値向上に向けた展望について、当社社外取締役を務める中村 恒一氏、高岡 浩三氏に話を聞きました。
新たな経営体制で持続的な企業価値向上を目指す
経営人材の育成と2代目社長の指名プロセス
高岡 2022年頃から藤田さんがご自身の後任を育成したいという話があり、取締役会の最重要事項として社長のサクセッションプランに取り組んできました。サイバーエージェントには後継者育成を目的とした教育制度がなかったため、私のこれまでの経験から、育成の仕組みがない中で後継者を選ぶことは無謀であると提言したのを覚えています。こうした議論を経て、16名の候補者を社内から選定し、アカデミックな研修や藤田さんの決断を追体験するプログラムによる社長研修を実施しました。
私は、藤田さんや取締役が一方的に次期社長を選ぶというよりも、この研修を通じて16名が切磋琢磨し、「彼・彼女なら社長としてふさわしい」と彼らの中で信頼を勝ち取る人が出てくるのが理想だと考えていました。今回のプロセスを経て、参加者全員が平等にそれぞれの多様な側面を見ることができ、山内さんを選ぶにあたって、早い段階で自ずと意見は一致していたと感じています。
社長研修以降は、何名かに絞られた候補者に、社長として必要なスキルを身につけてもらうための能力開発期間を設けました。特に、中長期戦略の中心であり収益化に至っていない事業分野に山内さんを配置し、多様なステークホルダーを巻き込んで実績を上げられるかを見てきました。
中村 候補者の方々は各々の担当事業においては申し分ない実績を持っていますが、社長には全社視点での事業構想力、戦略推進力、そして求心力が必要となります。
山内さんにはメディア&IP事業の責任者という重要な役割を遂行してもらい、その過程で、能力開発がどの程度進んだかについて評価いたしました。これに加え、外部アセスメントの結果や社内取締役からの意見も踏まえ、今後さらに能力を身につけていく必要はありつつも、総合的に見て2代目社長として適任であると判断し、指名・報酬諮問委員会で決議しました。
山内社長に期待される戦略遂行と継承すべき文化
中村 現在の中長期戦略の中核である、メディア&IP事業は引き続き山内さんが担うことになります。この一年間で成長戦略はさらに具体的になったと認識していますが、今後はグローバルで通用するオリジナルIPの創出が必須要件になる。「ABEMA」の今の姿は当初の想定とは多少異なるものになっているように、IPを軸とした戦略も、事業や環境の変化に応じて軌道修正しつつ成果を出すことが山内さんの重要な仕事であり、大いに期待する所です。
高岡 社長になれば、経営戦略に大きな間違いがないかを常に考えながら修正していく必要があり、今まで以上に俯瞰的に戦略を考えていく習慣をつけることが求められます。考える時間や悩む時間を十分持つことが、最終的には血となり肉となり、彼の自信に繋がるでしょう。
年齢に関係なく思い切って仕事を任せるサイバーエージェントのカルチャーは、今後も残してもらいたいし、もっと育ててほしいと願っています。入社以来約20年にわたり活躍を続けている山内さんは、このカルチャーを深く理解・体現していますし、新社長として変革を続けてくれるものと期待しています。
社外取締役が担う伴走期間の監督と提言
中村 ここ数年でM&Aなどを通じ外部アセットを活用しながら競争力を強化してきたことは、サイバーエージェントにとって大きな進展だと考えています。これから投資の規模がより拡大する可能性を鑑みると、資金調達や資本政策、財務戦略は重要な課題となるでしょう。
M&Aの方針や候補先の評価指標がこの1年間で整備されていますが、さらに今後取り組むべきことの一つが、報酬や事業のマネジメント方針、投資基準などの整備です。これまでは藤田さんの経験で培われた直感力に依っていた経営判断を、中長期的に誰が社長になっても引き継いでいけるような方針、指標として確立させることが求められます。これらについては、伴走期間を通じて助言していきたいと考えています。
高岡 28年間経営を担ってきた藤田さんからの引き継ぎは、一般的なサラリーマン社長からの承継とは難易度がまったく異なり、引き継ぎ書を読めばできるようになるような単純なものではありません。新社長と会長の役割分担はあえて明確にせず、藤田さんが伴走しながら引き継ぎを進めていく今回の手法は、極めて妥当であると捉えています。
山内さんは非常に謙虚でありながら、内には強いものを秘めており、周囲から信頼を勝ち得ることができる人だと感じています。私も客観的な視点から、サイバーエージェントはどうあるべきかというアドバイスをしていきたいと考えています。
経営体制における多様性向上
中村 2025年12月の株主総会にて人事担当専務執行役員の石田さんが新たに取締役に選任され、取締役会の女性比率は20%となりました。今回の選任は時代の要請に沿ったというよりも、合理的な経営判断の結果であり、石田さんの経歴や現在のミッション、それに対する成果などを総合的に見て適任であると評価しています。
インターネット業界、特にエンジニアが多い環境では女性比率が低いという背景はありますが、今後も男女問わず優秀な人材を積極的に登用すべきと考えています。
高岡 私も今回の選任が実現したのは、これまでの育成への取り組みが実を結び、優秀な人材を公正に評価した結果の自然な流れだと思います。さらに、今後目指すところはサクセッションラダーと呼ばれる各階層ごとの後継者育成プランを全社的に構築することです。社長から課長のポジションまで引き継ぐ人材を常に準備しておくことで、全社的にマネジメント層のレベルがあがり、組織の厚みも増すと考えています。
内部統制の強化
中村 2025年3月に当社連結子会社における不適切な会計処理が判明し、それに伴い過去5年分の業績修正が発生した件については、株主を始め関係者の方々に大変ご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。サイバーエージェントにとって創業以来初めての事態であり、重く受け止めております。
まず、こうした不正計上がコーポレートリスクマップに組み込まれておらず、認識が不足していたという実態がありました。最初に情報共有を受けた際、私は「なぜ5年間も社内が気づかなかったのか」という疑問を呈し、徹底的な調査、計上ルールの抜本的な見直し、および経理・内部監査室の専門人材増員の3点をオーダーしました。
「自由と自己責任」という、サイバーエージェントの企業風土は最大の強みであり、この良さを損なうようなルールや規制は一切設けるべきではありません。しかし、今後同様の事案が発生しないよう、モニタリングとチェック機能のさらなる強化が必要だと考えています。調査報告書やその後の対応から、再発防止策は万全に講じられたと判断しています。
高岡 今回の件を受け、内部統制の一層強化を取締役会でも提言しました。サイバーエージェントは社員を信頼して任せる性善説のカルチャーで運営されていますが、個人的には監査部門くらいは性悪説に立って良いと考えています。内部統制の強化は、将来的なM&Aの可能性なども見据え、会社のブランドを守り、中長期的な企業価値の向上に必要不可欠であると認識しています。
社長交代を重ねても持続的な企業価値向上を目指す
高岡 今回の新社長指名は、多様な視点と活発な議論のもとで進められ、取締役会が適切に機能した結果、創業社長の後継者選任という難題を円滑に遂行できたと考えています。指名プロセスは完了しましたが、今後も継続して業績をあげられるよう、取締役会としても積極的に貢献していきたいと思います。
株主の代理として、現行の社長が引き続き適任であるかを監督し、ふさわしくないと判断した場合は交代を提言することが、社外取締役の責務でもありますから。
中村 サイバーエージェントには、新人の時から社員自身が主体性を持って仕事に取り組み、成果をあげる環境があり、これが成長の速さにつながっています。
成長機会の提供を継続しつつ、今後重要になってくるのは、社員の属性や背景にとらわれず、成果(ミッションの達成度)を適切に評価し、優秀な人材にはメリハリをつけた十分な報酬で還元することです。これまで藤田さんの強力な求心力によって成立していた部分も、社長交代のフェーズにおいては再検討が必要になってくると考えているからです。今期より報酬諮問委員会の議長を拝命しましたので、報酬制度の見直しに責任を持って取り組みます。
今後社長交代を重ねても、企業として取り組むべき経営の根幹は変わりません。社外取締役の役割は、独立した視点で経営を監督することであり、パーパスや企業文化を正しく把握したうえで、目の前で起こっている課題について外部の目で理解する必要があります。
また、過去の意思決定と現在の議論の整合性を吟味することも重要です。特に、社内中心の意思決定に対し、なぜそう考えたのかと疑問を投げかけ議論を深めることが、私たちの責務であると考えています。今後もサイバーエージェントが中長期的な企業成長を遂げられるよう、社外取締役として尽力したいと思います。