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Business

インターネット広告事業

成長戦略

インターネット広告事業は、高い技術力と運用力を強みに、変化の速い市場に適応し成長してきました。生成AIの台頭により広告業界が大きな変革期を迎えた今、これまで広告効果の最大化を目的としたAI技術開発へ先行投資してきたことが、競争優位性として実を結んでいます。現在は、その技術力を生かし、AI活用を業務効率化まで拡大し収益力の改善を図る一方、専門組織による新たなAI事業の展開や、将来の成長に向けたDX事業等の市場創出に取り組むなど、持続的な事業拡大を目指しています。

内藤 貴仁

生成AIがもたらす構造変化を、成長機会へ転換する

Profile
内藤 貴仁
(株)サイバーエージェント 常務執行役員
AI事業責任者

AI技術による優位性の確立

生成AIはクリエイティブ制作のハードルを下げましたが、広告で重要なのは、単に制作できることではなく、「効果の良いもの」を生み出すことです。この効果の差こそが当社の優位性であり、それを支えるのが、長年の広告運用で蓄積した膨大なデータと、クリエイティブの内製化で培った知見、そして高い技術力です。

技術を基盤に広告効果を高めるため、広告表現に特化した日本語LLM(大規模言語モデル)の自社開発に至りました。自社開発のLLMは、コストやスピード面での優位性に加え、SNSごとの細かな表現の違いにも最適化できる点が強みです。この独自LLMと膨大な成果データを組み合わせた「極予測シリーズ」が、多様な訴求表現を持つ効果的なクリエイティブの大量生成と、広告効果の最大化を実現しています。

AIの活用は、生産性を飛躍的に向上させています。クリエイティブ制作においては、トップクリエイターの平均制作量が15倍に増え、その中で最も多く制作したクリエイターでは従来比で最大70倍になりました。また、広告運用業務においても、自社開発した「シーエーアシスタント」を活用することで2日を要したレポート作成が2分で完了するなど、自動化が進んでいます。

他方、AIによるクリエイティブの大量生成は、顧客企業側の確認・承認プロセスに新たな負荷を生じさせますが、当社はこの課題に対し、企業ごとのブランドルールを学習し審査を自動化する「審査AI」や「極予測やりとりAI」を開発・提供しています。AI活用に伴って現場で生まれる新たな課題に対しても、迅速なプロダクト開発で対応し、顧客満足度の向上に努めています。

さらに、社内で培ったAI開発力を生かし、企業専用のAIエージェント「AI Worker」の販売や、生成AIを活用したクリエイティブ制作を担うBPO事業の新設など、顧客企業のAI活用を多角的に支援しています。

2025年度実績

協業パートナーとつくる新たな広告事業

2020年より開始したDX事業は、現在、ファーストパーティーデータを多く保有する小売をはじめ、金融、モビリティ、通信業界を主とした約30社とパートナーシップを締結し、当社が保有するデジタル領域の知見や技術力を応用した新たな広告事業の創出に努めています。

特に成長著しいリテールメディア領域は、当社の強みと市場のニーズが合致した戦略分野です。広告配信プラットフォームを構築する「開発力」と、そこで配信する効果的なクリエイティブを大量に生成する「制作力」。当社は長年にわたるアドテクノロジー開発とクリエイティブの内製化により、リテールメディア事業に不可欠なこの両輪を高い水準で有しています。

この強みを生かし、当社は小売企業のアプリやECサイトといったオンラインから、デジタルサイネージによる店舗のメディア化まで、オンラインとオフラインを横断した消費者接点を創出。小売企業が持つ購買データと当社のAI技術を連携させ、消費者の行動や広告効果を測定し、効果的な広告配信を図ることで、顧客企業の販売を促進しています。

DX事業は現在、将来の大きな成長に向けた基盤構築を進めていますが、今後数年で、この事業の市場成長を見込んでおり、中長期的に収益性の高い事業への転換を目指します。

広告におけるDX事業の協業先(一例)

技術力を事業成果に繋ぐ「AI Lab」

これらの取り組みを技術面で支えているのが、国内の広告企業では最初期となる2016年に設立した研究開発組織「AI Lab」です。その研究レベルは国内外からも高く評価されており、論文採択数は年間85本にのぼるだけでなく、AI研究をリードする企業として国内4位にランクイン※1し、独自開発した日本語LLMが日本企業で1位に評価※2された実績もあるなど、研究・開発力において外部機関から高い評価を受けています。

「AI Lab」は学術研究に留まらず「現場で使える技術」を重視し、年間約150件の社会実装プロジェクトを進行しています。AIと経済学を融合した価格最適化の研究により、小売店やメーカーと連携した実証実験を推進。これら小売DXを促進する取り組みは「リテールAIアワード2024」で「ベンダー部門賞」を受賞したほか、研究成果から生まれた「価格エージェント」は、クーポンの原資を最大70%削減するなど、企業のROI向上に貢献しています。

※1
Thundermark Capital「AI Research Ranking 2022」(2022年5月)
※2
NIKKEI Digital Governanceと米Weights & Biasesが共同で、主要企業や研究機関が開発した42件の日本語対応主要LLMを14の指標に基づき評価(2024年8月)

AIを軸とした新たな価値創造

昨今、生成AIの浸透は、広告業界に大きな構造変化をもたらしています。Googleが進める「AIモード」は、従来の検索広告市場に影響を与える可能性がある一方、企業と消費者の接点をよりダイレクトにし、ビジネスの前提そのものを変える可能性があります。

企業と消費者の間を取り持つという広告会社の本質は変わりませんが、その手段は生成AIによって、より速く、より細かくなりました。これに伴い、広告会社に求められる役割も、従来のメディアプランニングだけでなく、顧客企業の事業価値を共に創出するパートナーへとシフトすると考えており、この構造変化をより収益性の高い事業へ転換を図る好機と捉えています。

AI検索時代を見据え、新たなマーケティング手法を研究する「GEO Lab.」や、CRM専門組織「AIカスタマーサクセス本部」の新設に加え、生成AIによる低価格動画の専門部署や成果報酬型AI広告代理店子会社を設立するなど、変化対応力を生かし、AIを活用した新事業を続々と立ち上げています。これらを通じて新たな広告手法を構築し、代理店の枠組みを超えた新しい価値を創出するテクノロジーカンパニーとして、これからも変化に対応し、持続的な成長を目指してまいります。

AI活用の推移